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Achi-Cochi


心震える星空

2015.01.15

写真  あぁ、なんて苛酷なロケ……。頭が働かない。クラクラする。っていうか、もう気持ち悪い……。

 ハワイ島――マウナケア山。ハワイといってもワイハじゃない。みんなが思い描くリゾートじゃない。そこは、4200メートルの山の上。酸素は地上の3分の2で、気温は氷点下1度。わたしは2枚重ねたダウンにくるまり、時々酸素吸入をしながら、風邪と二日酔いを足したような苦しさと戦っていた。
 今回「いま世界は(毎週日曜18:54~)」の番組ロケで訪れたのは、マウナケア山山頂にある「すばる望遠鏡」。日本が世界に誇る巨大望遠鏡を擁する天文台だ。観音開きの扉の向こうに、望遠鏡の本体が顔を見せる。高さ25m。わたしの身長のおよそ15倍……その大きさに息をのむ。さらに特筆すべきはそこに取りつけられた反射鏡で、厚さは20cm、直径8.2m。「は、8.2メートル?」しかも、それがたった一枚の鏡でできているというのだからなおさら驚きで、作るのもたいへんだが運び上げるのもさぞかし難しかったろうと推測される。この鏡、継ぎ目のない一枚鏡では世界最大のものだという。

写真  望遠鏡というのは、鏡が大きいほど性能が高い。指折りの巨大反射鏡を持つすばる望遠鏡では、これまでにも天文の常識を覆すような様々な発見がされてきたが、中でも衝撃的だったのは、つい2ヶ月前、2014年11月に発表された「地球から最も遠い銀河の発見」だ。その距離、なんと131億光年。光年というのは光の進む速さに基づく距離のことで、131億光年とは、光が届くまでに131億年かかった距離、ということ。つまり、131億光年先にある銀河というのは、131億年前に存在した銀河にほかならず、138億年前に宇宙創世――いわゆるビッグバンが起きたのだから、なななな……なんとビッグバンからたった7億年後に存在した銀河を発見してしまったってことなのだ!これが今現在の「最も遠い」つまり「最もビッグバンに近い」銀河の記録。これからさらに観測の精度がさらに上がって、より遠くの天体が発見されることになれば、そう遠くはない未来、ビッグバンの謎が――つまりは、わたしたちが棲むこの宇宙がどうやって生まれたのかが――解き明かされるときがくるかもしれないのだ。
 なんて果てしなきスケール。なんて壮大なロマン……。

写真  そして。雲海に燃えるような日が落ち、ついにマウナケアに夜が訪れる。麓の街灯りは見えるけれど、ここ、頂上は漆黒の闇。観測の妨げになるため、懐中電灯をつけることさえ許されず、目が慣れるまでしばらくかかる。
 果たして、ここから見える星空は、どんなものなのか……。じらすように帽子のつばで視界を遮り、カウントダウンしながら空を見上げる。3・2・1……!!

 満天の――ワァッと光を撒き散らしたような星空……。何千なんてもんじゃない。何万、何億……数え切れないくらいの星々が、夜空にひしめいている。
「星はこんなにも空に満ち満ちていたのか……」今まで見ていた都会の夜空はいったいなんだったのだろう。本当の星空は、星座がわからないくらい星で溢れていたのだ。
「あぁ、だめだ……」抑えようとしたけれど、涙が出てきた。なぜだめかって、ここは4200メートルの山の上。泣くと、酸素が薄くて呼吸困難になるのだ。苦しい。だけど、涙は止まらない。ちょっと頭がクラクラしてくる。息苦しさと、危険信号を出す心臓の鼓動を聞きながら、頭の片隅で「あぁ、生きてるってありがたいことだな」と思った。だって、誕生から138億年という長い長い宇宙の歴史に、こうして存在させてもらったのだから。こんなに美しい星空の、遠い天体から見たらきっと点でしかない地球に生まれることができたのだから。青い顔で深呼吸を続けながら、ここマウナケアの山頂で、わたしは文字通り心が震える感動を体験したのだった。

☆すばる望遠鏡は、一般見学も可能です。
http://subarutelescope.org/j_index.html